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「草鹿大佐」
高野は至って低い声で、草鹿の名前を呼んだ。
「何かね?」
草鹿が訝しげに答える。
「今から、全てをお話します。この航空機のこと。俺のこと。全てを」
草鹿は驚いたように、周りの顔色を伺う。
高野が、こう切り返してくるのが予想外だったようだ。
「しかし、条件があります」
高野は、少なからず生じた混乱につけ込む。
「条件とな?」
「はい、俺を山本五十六閣下の所に連れて行って下さい。全てはそこでお話致します」
「ふむ、ならばこちらからも一つ、条件を付けよう」
「何でしょうか?」
「この飛行機に使用されている技術、内部の設備、どれをとっても、今の日本ではお目にかかれないような品物だね」
草鹿は座席を撫でて、さわり心地を確かめる。
「だが、君はこの飛行機に乗っていて、日本人だ。これは、大いに矛盾していると思わないかね?せめて、君の素性くらいは明かしてもらわんと、私もどうしてよいか判断の下しようが無いのだよ」
高野は渋い顔で黙り込む。
あまり、大勢の人間の前で未来からタイムスリップしてきた事を明かしたくない。
しかし、機を失ってしまい、歴史の改変に失敗すれば本末転倒である。
高野は胸の内で静かに葛藤した。
「知っていてほしい。君を生かすも、スパイとして殺すも、今のところ、決定権は現場責任者たる私にあるのだよ」
草鹿は大きな一手を打った。
ここで動揺を与えて高野の思考を停止させよう、という腹である。
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