第4章:激突

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宇垣は沢村を小馬鹿にするように鼻を鳴らす。 「貴様、この作戦の骨子を忘れたか?」 参謀から貴様に呼び名が変わったか、と沢村は内心微笑んだ。 「ええ、もちろん忘れてなどいません。この作戦の目的。それは・・・」 沢村は短く口をつぐんで、息を吸う。 「クェゼリン環礁に来襲した敵艦隊を『主力艦同士による艦隊決戦』において包囲、撃滅すること、でしたか」 言い終わると、宇垣は満足そうに口の両端を吊り上げた。 「ならば、自分の発言がそれに反していることに気付かぬのか?」 「いいえ、そうは思いませんが」 沢村は間髪入れずに宇垣の言動を否定する。 「ほう?」 宇垣は激怒するまでもなく嘲笑的な笑みを浮かべた。 まるで、子供が言う戯言に、仕方がなく耳を傾けているような態度であった。 「今回のKE作戦は、対米開戦以前から構想していた『漸減要撃作戦』を応用したものです」 沢村が言う『漸減要撃作戦』とは、日露戦争時に当時の連合艦隊作戦参謀であった秋山真之が提唱した「七段構えの陣」が元となった、帝国海軍の対米構想である。 マーシャル諸島付近に誘き寄せた米艦隊を航空機、水雷戦隊、潜水艦隊などの波状攻撃で敵の戦力をすり減らした後、主力艦隊同士の艦隊決戦で雌雄を決するという戦術である。 この作戦で言えば、現在はマーシャル沖に米艦隊を誘き寄せることに成功した段階だった。
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