第4章:激突

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沢村が言い終わると、その場にいたすべての将兵たちの脳裏に先のシンガポール港攻撃の事例が過った。 あの時は、攻撃手段が水平爆撃に限られていた、という制約はあったが、それでも停泊中の戦艦になら爆撃だけでも十分に通用するだろう、と事態は楽観視されていた。 しかし、ふたを開けてみると敵戦闘機の妨害を受けて2戦艦を撃破という不本意な結果に終わってしまっている。 護衛の戦闘機の妨害を受ければ鈍重な攻撃機は爆撃コースに入ることもままならず、停泊中の戦艦でさえ撃沈できないことが判明した瞬間であった。 航行中の戦艦は時速25ノットと言う高速で動き、加えて、二次元的な回避行動により爆雷撃を避けることが可能である。 したがって、航空機からの対艦攻撃はさらに困難になることは、自明であった。 「いかがでしょう、長官。万が一、航空攻撃で戦艦を失った、としても我々にはドイツ由来の秘策があるのです。米艦隊には決して劣ることは無いでしょう・・・・・・、ご決断を」 沢村が念を押すと、山本は静かに頷いた。 それに意義を唱える者は皆無である。 方針は決定された。 「和田参謀」 山本が名前を呼ぶと、通信参謀である『和田 雄四郎』中佐が短く返事をした。
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