1166人が本棚に入れています
本棚に追加
同日08:27、ウェーク島南方、およそ250海里。
その穏やかな海域で、米太平洋艦隊第17任務部隊は虎視眈々とクェゼリン島への攻撃の機会を窺っていた。
B-17が飛行場を絨毯爆撃して日本軍の迎撃能力を喪失させ、その隙に『サラトガ』と『ヨークタウン』両航空隊による奇襲を狙った波状攻撃を行う手筈だったのである。
ちなみに、もう2隻の空母、『エンタープライズ』と『レキシントン』航空隊は、日本の機動艦隊が現れたときに速やかに攻撃隊を送れるよう対艦爆弾と魚雷を搭載していため、クェゼリン島攻撃には参加しない手筈となっていた。
だが、その思惑は既に外れようとしていた。
「爆撃が失敗に終わっただとっ!?」
第17任務部隊司令官『ウィリアム・F・ハルゼー』中将は、半ば信じられないという様子で、報告書を持っってきた部下に食って掛かった。
怒鳴られた彼は、もう一度手のひらの中にある紙切れに、雑に書かれた筆記体の文字に目をやる。
タイプで打ち直している余裕など皆無であったのだ。
ならば、備え付けの艦内電話で済ませば良いのだが、重要な情報は雑音が入りにくく情報が正確に伝わる紙を媒体として伝えるよう、ハルゼーは日頃から厳命していた。
「ウェークを経由した確かな情報です。間違いありません」
淡々と読み上げる通信仕官は、この船での経歴が長い。
つまり、怒り狂ったハルゼーに直面したことが何度かあるのだ。
これがアナポリスを出たばかりの若い仕官ならば、その闘犬にも劣らない迫力に気圧されていただろう。
「もういい、下がれ」
ハルゼーは報告書に目を通さず、半ば投げやりな口調で彼を追い返した。
最初のコメントを投稿しよう!