第4章:激突

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彼が艦橋から出て行くなり、ハルゼーはため息をついた。 「どこのどいつだ、『空の要塞は無敵だ!』と豪語した陸軍の馬鹿は」 その声には覇気はなく、変わって、落胆の色が混じる。 この作戦の前、ハルゼーはキンメルに問うたことがあった。 「クェゼリンを殲滅した後、作戦通り我々は敵艦隊を牽制しつつ北に逃げる。上手くいけば陽動となり、艦隊を北に吊り上げることができるが、本格的な戦闘になった場合、我々はどこまで戦えばいい?」と。 クェゼリン周辺に有力な帝国艦隊が展開していることは、続々と入りつつある情報から考えると火を見るより明らかである。 総合的な戦力は、双方ほぼ互角と考えてもよかった。 であるから、ハルゼーには主力艦同士の決戦前に、なるべく主力艦隊である第18任務部隊を消耗させないよう、自ら囮となるよう命が下っていた。 これは今回立てられた計画の一環で陽動作戦である。 ハルゼーは、航空機こそ戦艦に唯一勝る兵器である、と考えていたので自らが囮となることを反対したが、当初3隻の予定だった空母の数を第18任務部隊から引き抜いて、4隻にすることで、渋々承諾したのであった。 米軍の計画では、まず、B-17の奇襲爆撃と第18任務部隊の攻撃によりクェゼリン島の飛行場を破壊する。 第17任務部隊がこれに合わせて南進。 日本の空母を沈められなくとも、日本軍の機動艦隊をハルゼーが誘き寄せて北に吊り上げ、ウェーク島の陸上機と共同でこれを殲滅することで、クェゼリン島周辺の空域から日本機動艦隊を排除する。 その隙をついた主力艦隊が日本艦隊を強襲し、純粋な砲戦能力の差によって雌雄を決する、という目論見であった。 砲戦能力では米軍側が勝るため、どちらにも制空権が傾かない状況では、米軍の勝利が確実視されていた。 日本主力艦隊を撃破後は、第18任務部隊の支援の元、海兵隊がクェゼリン島に上陸、速やかにこれを占領する手はずであった。
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