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直後、
「いやあ、草鹿君。正体不明の大型機が不時着水した、と言うもんじゃから、つい、足を運んでしまったよ」
草鹿は、もう、驚嘆を通り越して、呆れる事しか出来なかった。
その背後では、
「おいおい、マジかよ」
高野が若干引きつった笑みを漏らす。
作業員を押しのけるように旅客機に乗り込んできて、草鹿を君付けで呼ぶ軍人。
軍帽の下から除く髪は白髪交じり。
顔に刻まれた数々の皺から、年は50代後半に見える。
彼の左手をよく見ると、白い手袋の上からだが、左手の人差し指と中指が欠損しているのが分かる。
間違いない。
彼こそが、後の連合艦隊司令長官『山本 五十六』だった。
その後ろには、外で待機させていたはずの草鹿の副官がついている。
「いやあ、しかし、えらく豪華な造りじゃの。座席も柔らかそうじゃし。我が国にも2、30機欲しいくらいじゃ。あの固い椅子でトラックまで出向くのは敵わんからの」
山本は、草鹿がそうしたように座席を触って感触を確かめる。
そして、
「おお、こりゃあ、なかなかの座り心地じゃな」
心配する草鹿をよそに寛ぎ始めた。
「山本さんっ、何故こんな所に!?」
草鹿は気が気でないらしく、山本の本に駆け寄る。
「五月蠅いのぅ、草鹿君は。今日は元々、休暇の申請をしとったのじゃよ。別に、休日に儂がどうしようと勝手じゃろうて」
「しかし、いきなりは困ります。事前に連絡を通して貰わないと」
「ほぅ、儂はダメなのに、学生の社会見学は許可したのかね?」
草鹿は、それで思い出した。
この場に不穏分子が存在する事を。
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