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「元々、変じゃと思っとった。
この機体は、レシプロ式ではない。ターボジェットエンジンを搭載しているじゃろ。
あれは、ほんの、2、3年前にイギリス軍が開発したばかりの物で、まだ、各国とも試作機さえ造れとらん。
そんな国家機密級のエンジンを民間の旅客機なんぞが積む訳がないからの」
「ありがとうございます」
高野は再び頭を下げた。
「それで、未来から来た君は、儂に何を伝えようとしとったのじゃ?」
「・・・顔に出ておりましたか?」
「君から切り出したんじゃろうが」
「確かにそうでした。では・・・・・・」
そして、高野はクルリと草鹿の方に向き直る。
「草鹿大佐、人払いをお願いしたいのですが」
「ふむ、人払いかね?」
「はい、今からの事は、あまり公にはしたくないので」
草鹿は少し悩んだ後、高野の指示に従って、樋端以外を退けた。
高野は、作業員が居なくなった事を確認して、学生服のポケットに手を突っ込む。
そして、草鹿が見守る中、一冊の文庫本を取り出した。
本の題名は『大東亜戦争史』。
高野が、タイムスリップしてしまう直前まで読んでいた本だった。
「何じゃね、それは?」
山本が興味深そうにそれをのぞき込む。
「この帝国の末路ですよ」
高野は、ある程度の手応えを感じつつ、それを山本の手に渡した。
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