序 章:旅路

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2012年6月4日午前10:25 東京都羽田飛行場上空 高松発羽田行きJAL1404便は、着陸の順番を待つため、銀翼を煌めかせて、ゆっくりと旋回していた。 アナウンスが流れ、若いCAがリクライニングを戻すように指示をしている。 そろそろ、シートベルト着用のサインが点灯するだろうか。 高野は空港の売店で買った文庫本を自らのポケットにしまった。 窓の外を眺める。 透明なアクリル板の向こうには、透き通った青空が広がっており、眼下には一面、真っ白い雲が広がっている。 雲海というやつだ。 どうやら、地上は曇っているらしい。 田舎者の高野にとって初めての東京。 彼の心は、これからの修学旅行の事で支配されていた。 その時だった。 まさに青天の霹靂、眼下に立ち込める雲海の遥か上空で何かが光った。 稲妻や流れ星等ではなく、もっと大きく朱色の火球が現れる。 何と形容したら良いのかわからないが、それは太陽に似ていた。 しかし、それが現れたのは北西の空。 太陽とは全く逆方向だ。 「うわっ、なんだあれっ!?」 それに気がついたクラスのみんなが立ち上がり、アクリル板に顔を押し付ける。 我先にとそれを凝視した。 まるで、唐突に現れた虹でも眺めているようだ。
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