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広島、長崎型の数百倍の威力を持つ核爆弾が経済の中心地である東京で炸裂したとなると、死傷者数など想像も出来ないからだ。
山本の脳裏に、「大東亜戦争史」に掲載されていた焼け野原がまざまざと映る。
「想像してみてください。どす黒く淀んだ大気、立ち上る黒煙、炭化した建物と人、そして、焼け焦げた着物を身にまとい街中をさ迷う人間、それが70年後に再び繰り返されるのです」
高野は唸る山本にさらに畳みかけた。
歴史を変えたくない、と思う方が不思議だろうと思わせんばかりに。
高野はこの時、EMP攻撃について一切触れなかった。
通常の熱線で都市を焼き尽くす核攻撃とは違い、EMPは強力な電磁波で都市機能を麻痺させるものであるから、その攻撃で直接死傷者が出ることはない。
よって高野が発した内容は完全に思考を操るためだけの嘘である。
触れたとしてもこの時代の人間には理解しがたい事であるし、何万人もの人間が命を落としたことは、ほぼ事実であるから、話に多少の脚色をした。
死に方に若干の違いはあれど、死んだことについて変わりない、という訳だ。
「つまり、君はその核攻撃を未然に防ぐために、歴史を変えると?」
「はい。そして、その後に勃発するであろう核戦争もです」
「・・・ふむ、動機は分かった。しかし、君はどの様に歴史を変えるつもりじゃ?具体的に聞かせてもらえんか?」
「・・・まず、太平洋戦争、日米開戦を回避したいと思っています」
「まずは目先の人間を救う、と?」
「それもありますが、俺が思うに、太平洋戦争は歴史上の大きな分岐点だと思うんです。だから、それを変えると歴史が大きく変わるんじゃないでしょうか」
「確かに、分岐点なのは間違いないじゃろうな。しかし、それで核戦争が回避される、と決まったわけじゃないんじゃろう?」
「・・・ですが、やらないよりはマシです。お願いします。俺に力を貸してくれませんか」
高野は、今日三回目、頭を下げた。
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