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その夜、雲一つない夜天には、細く鋭い有明の月と無数の星が輝いていた。
放射冷却現象のせいで冷え込み、3月だと言うのに、まるで冬のように寒い。
そんな中、高野は、座敷の畳の上で静かに寝転がっていた。
火鉢に火をくべても、なお寒い。
・・・暖房かストーブくらい欲しいな。
俗世にはあるのだろうが、純和風を貫いている山本邸には、それは無い。
ただ、一般に出回っていないだけかもしれないが。
ふと、21世紀の文明の力、と言うものが恋しく感じられた。
・・・今頃、みんなはどうしているだろう?
大勢の友達が死んだ。
でも、未来には残された両親、親類、それにたくさんの知り合いがいる。
地元が四国の田舎、ということで、直接EMP攻撃の影響は受けないだろう。
いや、核爆発が大阪でも起きていたとすると、たとえ田舎とて、それの被害圏内に入るかもしれない。
人体に殆ど影響は無いが、生活には大きな支障を来すはずだ。
まず、生存は確実だろう。
・・・向こうも俺の事を心配しているだろうな。
高野達が東京に旅立ったその日、核攻撃が成されたのだ。
心配するな、と言う方が無理な相談だ。
・・・死体でも見つかれば、多少は諦めがつくだろうに。
だが、高野は、ただ一人だけ肉体的に過去にやってきてしまった。
無論、未来で死体が見つかるはずがない。
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