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・・・ってことは、俺の両親は、一生諦めきれない、心の隅にわだかまりがあるような人生を送るのか。
「つくづく、俺は親不孝な人間だな」
高野の呟きは、冷たい空気にさえ溶けていく。
家族か・・・。
家族と月で思い出したが、うちの父もよく月を見上げてはその美しさを称えていた。
曾祖父が好きだったから遺伝じゃないか、とまだ存命だった父方の祖母が笑って言っていた気がするが、今はもう鮮明に思い出せない。
高野は曽祖父の事ことについては多くを知らされていなかった。
昔教えられたのかもしれないが、彼が帝国海軍の軍人であったこと、と月が好きだった事しか覚えていないのだ。
曽祖父は太平洋戦争で戦死、祖母も多くを語る前に他界したので今となっては知る由もない。
もし、名前だけでも聞いていたならこの世界で会えたかもしれない、と後悔するが、今となっては全てが遅かった。
「またミスったか・・・」
思い返せば自分の人生は過ちと後悔の連続だった。
そして、いつも家族に助けられていたような気がする。
小学生の時、喧嘩で相手の子供を怪我させて、両親と一緒に謝りに行ったとき。
成績が悪い、と両親共々、担任教師に叱られたとき。
拾った犬を飼い始めたとき。
そして、修学旅行の準備を手伝ってくれたとき。
親には、手こそ出したことは無かったが、様々な苦労をかけたっけ。
だが、過去に遡ってしまった今となっては、恩を返す術もなく、それらは、もはや記憶でさえない。
そう思うと、急に、喉の奥が締め付けられるように痛んだ。
何かが、複雑な感情が喉の底から込み上げてくるような感覚。
自然と目頭が熱くなり、妙に鼻水が出そうになった。
「・・・風邪、引いたな」
わざとらしく呟く。
高野は、誰が見ている訳でも無いのに、大袈裟に鼻水を吸い込む。
目が痒いふりをして、溢れ出しそうになる感情をぬぐい去る。
「・・・冷えたのか?少し、温まろう」
高野は姿勢を起こして胡座をかき、手を火鉢に翳す。
それがいい、と言わんばかりに真っ赤に焼けた炭が軽快に弾けた。
頬を伝って流れ落ちた雫は、温かかった。
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