序 章:旅路

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「まだ、未練があるなら、やり直せばいい。君には、その資格がある」 高野は、何が何だか理解が出来なかった。 何故、この老人は墜落中の航空機に乗っていて微笑んでいる? 死ぬのが怖くないのか? 「やり直せばいい」とはどういう意味なのか? 「私は失敗した。変えられなかった。歴史を、運命を。私のせいだ。私が無知だったからだ。私のせいで大勢の人間が死んで、これからも死ぬ」 老人は目を閉じて、一つ一つ記憶を引き出して回顧するようにぶつぶつと呟く。 そして言い終わった途端、目を見開いて、 「だが、君なら大丈夫そうだ。君は知識もありそうだし、何より私は君をよく知っている」 高野は意味が分からず目を見開く。 この老人とは初対面のはずだから、よく知っている、と言われるはずがない。 だが、老人は最後にはっきりとこう言った。 「『正明』、日本を頼んだぞ。過去を書き換え、未来を、そして、俺たちを救ってくれ」 この老人は、どうして自分の名前を知っているんだ? よく知っている、と言ったのは、やはり偽りでは無かったのか? 様々な疑念が心中に渦巻く中。 その言葉が、高野が耳にした現代最後の言葉となった。
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