1166人が本棚に入れています
本棚に追加
「一体、これは何なのだろうねぇ?」
朝霧が立ち込める浦賀水道の波間に、全長17m程度の船体にに発動機をつけた、内火艇と呼ばれる小型の船が揺れている。
白波を受けて、まるで木の葉のように。
その甲板の縁で、黒く高級感がある大日本帝国海軍の第一種軍装を身にまとった男が腕を組んで、首を十数度ばかり傾げていた。
襟の階級章が表す階級は大佐。
陸海軍共同作戦研究会員の『草鹿 龍之介』大佐だ。
彼は航空事故調査委員会で活躍をしていた過去があり、航空本部から事故調査の応援を要請されここに立っていた。
通常の飛行機事故ならば,知らせが入った後現地に赴くのは会議や委員の編成を終えた2~3日後だが、今回彼はそれを待たずに現地に派遣された。
草鹿は不思議そうに目線をスライドさせる。
彼の目の前で海岸に打ち上げられていたのは巨大な無人らしき航空機だった。
白く塗装されている胴体は太く、全長は優に30mは超えている。
もしかしたら、40m以上あるかもしれない。
その図体を空に舞い上がらせるための揚力を得る翼、それもまた巨大。
草鹿が今まで見てきた航空機の中でも1、2を争う程の規模を誇っていた。
驚くべき点はそれだけではない。
この航空機の発動機らしき物には、当然存在するはずのプロペラが存在しなかった。
最初は着水の衝撃で、スピナーからプロペラのみが欠損したものだと思ったが、そのような痕跡はない。
まるで、最初から、プロペラが付いていなかったようだった。
そしてまた、発動機自体も草鹿がこれまで目にしたことがない形をとっている。
草鹿は、航空機ついて詳しく理解していたつもりだったが、これが何なのかは、全く理解できず、検討もつかずにいた。
最初のコメントを投稿しよう!