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蝉の音が暑さを強調する様に響く林の横を、バス停から歩いて5分、上り坂の先に蜃気楼まで見える。
大きな鞄を提げた中年夫婦と、迎えに来た若い女性が無言で歩く。
間柄は親戚、叔母夫婦と姪だが初対面。
そうそう会話なんて続かない。
額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながら黙々と歩き、立派な日本家屋に足を踏み入れた。
「どうぞ。」
若い女性に促されて中に入り、広い仏間の襖を開く。
仏壇の前には、彼女の両親と思われる2人の、にこやかに微笑む写真が飾られている。
「まさかこんなことになっていたなんて…。香織ちゃん連絡してくれてありがとう。」
香織と呼ばれた彼女の両親は、先月事故で亡くなっていて、遺品整理中に、母親の妹(目の前の叔母)の存在を知り、思わず連絡をしたのだ。
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