第1章 ソロウの舞い 最初の訪問者

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  都会のビルたちの狭間に、一つの小さな建物。  一人の青年の男が、その建物の看板を見つめている。  建物に『去舞道』の看板。  好奇心が湧いた男は、建物に近づく。  白い壁 白い扉  コンクリートのようで、コンクリートでないようなサイコロ型の建物の扉をくぐる。    何もない部屋。  青一色の壁や床。  異空間に迷い込んだような感覚だ。  部屋の奥の、青色のカーテンに気付き、近づいていく。  カーテンが、わずかに揺れる。  男は立ち止まる。  ゆっくりとカーテンが開く。  日本舞踊姿をした女が現れる。  女は、男に頬笑みかけた。 「いらっしゃい」 「あ、どうも」 「螺旋の道へようこそ」 「螺旋階段ですか?」 「階段ではないけど、そんな感じね」 「去舞道という文字の看板があったので、なんだろうと思って、おじゃましてみました」 「ようこそ」 「去舞道ってなんですか?」 「螺旋の道を登り、見渡すのです」 「よく意味がわかりませんけど、それを見せてもらうことができるんですか?」   「そうよ」 「あ、料金は?」 「お金は必要ありません」 「え、そうなんですか……」 「必要なのは、素直な目です」 「はあ」  女は、カーテンの裏へ引き返していく。  すぐに女は、カーテン裏から戻る。  女の手には、扇のメニュー表。  それを男に差し出す。 「それでは、選んでください」 「扇(オウギ)ですか?」 「そうです」  差し出されたメニュー表を男は眺める。 「いろいろな扇の写真がありますね」 「ここから選択します」 「あっ、はい」  鮮やかな色の、様々なデザインの扇が載っている。  男は、迷いながらも指をさす。 「この扇でいいです」 「これは、ソロウの舞いという扇です」  選択したのは、青系色の花柄模様のような扇。  なにか、もの悲しさの空気を巻き付けているようなデザインである。
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