へろんへろん

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 人は刺激を求める。それは私も例外ではない。退屈というものは本来、人の栄養になる代物ではない。内なる部分に泥が溜まるだけだ。誰でも不快な状況は打破したいものである。  しかしそれを変える手法は、そんじょそこらに転がっているわけはない。試行錯誤を繰り返しても、降ってくるアイデアは腹の足しにならぬものばかりになってしまう可能性も否定できない。  だが転機は突如として訪れる。それは平等に私にも舞い降りた。  ただ、それは決して良いものとは限らない。  ある日と銘打っておこう。私は毎朝と同じくして、登校中だった。  私は学校まで徒歩で通学する。家が近いというのもあるが、徒歩の方が私の退屈な心を刺激する要因を発見しやすかった。それらは主に、とある家の番犬が今日も牙を剥き出して吠えている姿や、散歩する老人達の何気ない井戸端会議の内容や、野良猫の赤子がいつのまにか増えている事など、とてもくだらないものではあるが、私は勉強や学校生活よりも安らぎを得ていた。退屈はその瞬間、幾分緩和されていた。  その日はその流れを覆し、異種な流れを組んでいた。 私が学校に差しかかる坂の最下に足を踏み入れた時だった。そこからは坂の上に位置する校舎の全貌が望めるのだが、校舎の壁面がくすんで見えた。それはただ日常の汚れが蓄積された色ではなく、壁面に一夜にして薄い灰色のペンキを吹き付けたと言ってもいい光景だった。
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