へろんへろん

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 しかし逃走劇も束の間、3階の廊下に差しかかった時、私の体力は限界に達した。前屈みになり膝に手を当て、肩を激しく上下させた。  額の汗を拭き、顔だけを廊下に向ける。視線の先、延長線上の廊下の奥には、笹かまぼこ型巨大はんぺんが躍(おど)っていた。 「何なんだろ、あれ」  疲れ果て、もうどうでもいいやと投げやりな感情が染み出した頃、ようやくその疑問が浮かんだ。  そもそもあれは何なのだろう。何故私にしか見えないのだろう。何故皆が見えないのだろう。何故私の前に現れるのだろう。 「朝っぱらから何なんだ」  知らぬ間に零れる愚痴。それに伴い、怒りが込み上げる。疲れと不可思議な物体のせいで、沸点が変化した。  気付くと私ははんぺんに向かい、肩を怒らせて大股で歩き出していた。すれ違う3年生が、下級生である私に恐れの色を示し避けていく。私は余程恐い顔をしていたのだろう。モーゼ宜しく、道は開かれていった。
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