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「紅茶が苦手なら珈琲もお出しできますよ」って、付け加えてくれたけど。
幸い、あたしは紅茶のほうが好きだ。
「紅茶って、こんなに良い香りがするんですね」
何度も飲んだことがあるのに、こんな風に感じたのは初めてで、なんだか不思議。
「お客様はどの銘柄がお好みですか?」
「あ……あたし、そんなに知らないんです」
普段はティーバッグばっかりだし、ちゃんと葉っぱから淹れて飲んだことは数えるほど。
「飲んだことがあるのは……確か、ダージリン、だったかな?」
「そうですか。うちでは、お客様の好みに合わせてブレンドしたりもするんですが……まずは、お客様の好きな味を見つけましょうか」
と、いたずらっぽく笑って、マスターが沢山の小さなカップを並べる。
「全種類を試飲するのは、数が多すぎて無理ですから。
代表的なものをいくつか、飲み比べてみて下さい」
丁寧な手付きで、目の前のカップに琥珀色の液体が注がれる。
一番最初に満たされたカップには、さっき飲んだことがあると言ったダージリン。
ダージリン、アッサム、アールグレイ、ディンブラ、ニルギリ。
知っているものから、聞いたことのないものまで、数種類の紅茶を飲んだ。
「――最後に、セイロンです」
どの紅茶も、とても美味しかったけれど。
「……これが一番好きです」
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