出会い

6/19
4509人が本棚に入れています
本棚に追加
/355ページ
「紅茶が苦手なら珈琲もお出しできますよ」って、付け加えてくれたけど。 幸い、あたしは紅茶のほうが好きだ。 「紅茶って、こんなに良い香りがするんですね」 何度も飲んだことがあるのに、こんな風に感じたのは初めてで、なんだか不思議。 「お客様はどの銘柄がお好みですか?」 「あ……あたし、そんなに知らないんです」 普段はティーバッグばっかりだし、ちゃんと葉っぱから淹れて飲んだことは数えるほど。 「飲んだことがあるのは……確か、ダージリン、だったかな?」 「そうですか。うちでは、お客様の好みに合わせてブレンドしたりもするんですが……まずは、お客様の好きな味を見つけましょうか」 と、いたずらっぽく笑って、マスターが沢山の小さなカップを並べる。 「全種類を試飲するのは、数が多すぎて無理ですから。 代表的なものをいくつか、飲み比べてみて下さい」 丁寧な手付きで、目の前のカップに琥珀色の液体が注がれる。 一番最初に満たされたカップには、さっき飲んだことがあると言ったダージリン。 ダージリン、アッサム、アールグレイ、ディンブラ、ニルギリ。 知っているものから、聞いたことのないものまで、数種類の紅茶を飲んだ。 「――最後に、セイロンです」 どの紅茶も、とても美味しかったけれど。 「……これが一番好きです」
/355ページ

最初のコメントを投稿しよう!