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その女性(ヒト)は父の職場の人で、会社での父の様子を見かねて、手伝いを申し出てくれたらしい。
――はじめは、凄くホッとした。
生まれて間もない赤ちゃんを預けられる所なんて無くて、ろくに学校にも行けていなかったから。
これでやっと普通に生活できるかも知れないって、喜んでたんだ。
その女性(ヒト)―――由里子(ゆりこ)さんは優しい人で、炊事や洗濯、妹たちの世話を笑顔でこなしてくれた。
母が亡くなってからずっと暗かった父の顔に笑顔が戻ったし、家の中にも、母が居た頃の様な雰囲気があった。
――でも、あたしは段々笑えなくなっていった。
だって由里子さんはあたし達の母親じゃない。
父の妻じゃない。
なのに、母との想い出がいっぱいつまったこの家から、母の面影が消えていく。
家の中の全てが、由里子さんのモノに塗り替えられていくようで、悲しかった。
そんなあたしの様子に気付くことなく、父が由里子さんとの再婚を決めたのは、17歳の秋。
――母が亡くなって、1年も経っていなかった。
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