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遠くの方から太鼓の音がしてきた。
どん…、どん。
どん…、どん。
リズミカルなその音に耳を向けるといつかの夏が甦る。
ーあの時も、ちょうど今頃だったな。
私の膝で寝入ってしまった娘の頭を撫でながら、遠いあの日を思い出した。
母親に朝顔の描かれた浴衣を着せてもらい、近所の幼なじみと手を繋いで夏祭りの会場へ向かう。
私達の遊び場だった見慣れた境内は、いつもとは違い色とりどりの屋台がでていた。
わたあめ、金魚すくい、かき氷…。
「カオリちゃん!次はりんご飴食べよう!」
幼なじみのユウちゃんが屋台を指さして私に言う。
「うん!りんご飴!」
私もユウちゃんと一緒にりんご飴の屋台に駆け出した。
「ユウ!カオリちゃん!」
一緒に来たユウちゃんのお父さんが私達を呼ぶ。
「お父さん、ここにいるからあまり遠くに行くんじゃないぞ!」
「はーい!」
二人で大きく返事をするけれど、もう頭の中はりんご飴でいっぱいだ。
まるでガラスに入っているようなりんご飴。
間近で見ると、思った以上に大きくて驚いたのを覚えている。
「…これ、一人じゃ食べきれないかも。」
「じゃあ、ユウちゃんと私ではんぶんこしようよ」
「そっか!それがいいね!」
おじさん!一個ちょうだい!
ユウちゃんはニコニコしながらひとつ買った。
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