夏模様

2/10
前へ
/10ページ
次へ
遠くの方から太鼓の音がしてきた。 どん…、どん。 どん…、どん。 リズミカルなその音に耳を向けるといつかの夏が甦る。 ーあの時も、ちょうど今頃だったな。 私の膝で寝入ってしまった娘の頭を撫でながら、遠いあの日を思い出した。 母親に朝顔の描かれた浴衣を着せてもらい、近所の幼なじみと手を繋いで夏祭りの会場へ向かう。 私達の遊び場だった見慣れた境内は、いつもとは違い色とりどりの屋台がでていた。 わたあめ、金魚すくい、かき氷…。 「カオリちゃん!次はりんご飴食べよう!」 幼なじみのユウちゃんが屋台を指さして私に言う。 「うん!りんご飴!」 私もユウちゃんと一緒にりんご飴の屋台に駆け出した。 「ユウ!カオリちゃん!」 一緒に来たユウちゃんのお父さんが私達を呼ぶ。 「お父さん、ここにいるからあまり遠くに行くんじゃないぞ!」 「はーい!」 二人で大きく返事をするけれど、もう頭の中はりんご飴でいっぱいだ。 まるでガラスに入っているようなりんご飴。 間近で見ると、思った以上に大きくて驚いたのを覚えている。 「…これ、一人じゃ食べきれないかも。」 「じゃあ、ユウちゃんと私ではんぶんこしようよ」 「そっか!それがいいね!」 おじさん!一個ちょうだい! ユウちゃんはニコニコしながらひとつ買った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加