『幽☆遊☆白書』に見る欲望と個性

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さて、本章は幽白についてだが、この作品は、やはり仙水編からが面白い。   仙水編以降、明らかに作品の放つ色が違っている。仙水編以降は、キャラクター、特に敵キャラクターが立っているのだ。   極論すれば、欲望とは個性である。キャラクターを描写してストーリーを進めるためには、こいつは何をしたいというものを強く示さねばならない。   しかし、前半の幽白はそれが決定的に弱かった。   幽白の主役である幽助は、基本的には受動的な立場である。霊界探偵編は、コエンマからの依頼で動き、暗黒武術会は戸愚呂弟の招待で出場した。もちろん各エピソードの中で幽助自身がどうしたいというのはあるが、そもそもの物語の駆動には、他のキャラクターの欲望があるのである。   敵役も彼らの行動の動機、すなわち欲望は口にしている。初期において飛影が霊界の闇の三大秘宝を盗んだのは、これを人間界で使えばおもしろいことができそうだから。乱童は、幻海の技を体得してもっと強くなるため。朱雀は、人間界に移住するため。   しかし、彼らの欲望は本人から、あるいは第三者からほんのわずかに口にされるだけ。エピソードの中でそれを読み手に実感させるような言動はまるでない。  言ってみれば彼らの欲望は、幽助とバトルをするという状況を作り出すための設定に過ぎないのだ。エピソードの核は、幽助と敵のバトルでしかなく、その際に敵キャラクターがどうしたいか、自分の欲望成就について何を考えているかはほとんど無視されてしまっているのである。   敵役の欲望が見えないため、それに対応する形で動いた幽助たちの欲望も必然的に弱くなってしまう。結果、バトルはただの殴り合いになり、カタルシスも不完全燃焼になってしまう。これが、私の感じる幽白前半のつまらなさの原因だ。
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