はじまり

9/13
前へ
/13ページ
次へ
「ふう……」 バタンと扉が閉まると、思わず深い溜め息が出た。 こんな高い天井、 煌びやかな装飾、 土足で踏んでも靴底を越えて柔らかさが伝わる絨毯。 それがこれからは日常となるのだ。 しかも、可愛らしい姫君の間近で。 「本当に、私なんかで良いのかな…」 正直、荷が重い。 何せ、20年生きてきて母上と姉君、城のメイド(年上の)くらいとしか女性とマトモに会話した事のない私である。 まぁ、おそらくそれも私が選ばれた理由の一つなのだろうが。 浮き名を流す男を迎え入れた時には、それが真になるかどうかは別にして、ろくでもない噂が立つのは避けられない。 王宮も基本は女中メイドで成り立つ女社会である。 女性ばかりの職場は怖い。 すぐに色恋沙汰の噂が立つ。 そしてそれが真であれ嘘であれ、面白おかしく騒ぎ立て、時に人を破滅させる。 相手が一国の姫君であれば尚更ダメージが大きい。 噂にしろ、身分賤しい男と恋仲になったなどと騒がれては、まず嫁ぎ先にソッポを向かれる。 実際、貴族の方が色恋はただれて好き勝手やっているものだが 嫁に貰うとなっては話が別。 姉君も相当にあれやこれや手を出しているが、あくまでも外には“純潔の令嬢”で通っている。 ああ、こんな風な裏を間近で知ってしまっているだけに、女性が怖いのかもしれない。私は。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加