はじまりの夜

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 腕時計は午後10時だということを持ち主に知らせた。  腕時計の持ち主である春樹は家を出て、暗い住宅街を抜け、母校の小学校まで走り始めた。  夜の散歩。本人はそう呼んで毎日行っているが、散歩と呼べるような距離ではない。  住宅街を抜けるのに1キロ、そこから小学校まで約2キロ。往復で6キロもある。  目的は何個かあった。体がなまらないように。夜の静かな空気を感じたいから。  しかし1番の目的は両親の喧嘩に巻き込まれたくなかったからだ。  春樹は両親の喧嘩を思い出す。  互いが互いを罵り、暴力を振るい、投げた物が壁に当たる。 1階の音が、2階にある子供部屋まで伝わる。いつもそれを聞いて震えていた。  嫌な事を思い出したな。  春樹はそれを忘れるように全力で走った。  目的地である小学校に到着した春樹は、校庭に侵入した。  ジャングルジムの頂上に登り、腰を下ろす。  いつものように夜空を見上げた。
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