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『右舷中部被弾!隔壁応急閉鎖!』
凄まじい衝撃と共に、壊滅した右舷側に大きく傾く飛空母「キサラギ」艦内は、まさに地獄そのものだった
『傾斜右35°!左舷フロート緊急ベント!』
警報が止まない
更にもうひとつ、「キサラギ」を揺るがす衝撃が走る
『右舷に敵弾命中!隔壁閉鎖弁、常用回路反応なし!応急班員は手動閉鎖を行え!』
しかし、浮力を失った飛空母は、もう空中に留まることなど叶わない
『傾斜右45°!止まらない!』
『高度下がります!400…350…』
絶望渦巻く艦内の、喧騒の最中
その男は、静かに目を閉じてタバコを燻らせていた
何らかの悟り、覚悟と似た佇まいである
「レウデリ」
男は、「その生物」をレウデリと呼んだ
真っ赤な髪、浅黒い肌の女
やや小柄だが、筋肉質な体つきが、特殊繊維の戦闘服越しに伺える
特異なのは背中の翼だ
小さく畳まれてはいるが、コウモリのそれによく似た翼が生えている
広げれば、かなりの大きさになりそうだ
口元の黒子を少し動かし、煙を吐いた男はレウデリを懐かしそうに、どこかいとおしげに、それでいて切なそうな瞳で見つめ、告げた
「これで、終わりのようだ」
飛空母「キサラギ」の高度はどんどん落ちていく
海面が迫り来る中、この二人の時間だけが妙に静かであった
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