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「マスター…」
言葉に詰まる様子のレウデリは、男を見上げて泣きそうな顔をしている
「私は、最後まであなたにお仕え致します」
その口調には気品があり、礼節を重んじる空気をまとっていた
男とレウデリは主従関係、それも強い絆によって結ばれた間柄であることが伺える
「レウデリ」
男は彼女の瞳を見据える
レウデリの目に、男の決意の眼差しが映った
「マスター…まさか!?」
その気配を感じとり、明らかな狼狽を見せるレウデリ
男の言葉は止まらない
「ラスト・オーダーの時間だ」
「お止めください!私は…マスターと共に…!」
「レウデリ。お前は良く尽くしてくれた。沢山苦労をかけたろう。悪かったな」
微笑む男
避けられない別れが近いことを知り、レウデリの瞳からは涙が溢れ出す
「そんな…今更何を…こんなときに、何を…」
ぽん
男の暖かい手が、レウデリの赤い髪を撫でる
「お前は、こんなに温かかったんだな」
嗚咽をあげるレウデリの目尻を、男は優しく親指で撫でて
涙を拭ってやった
「レウデリ。最期に俺の名前を呼んでくれないか」
もう、頷くことしかできないレウデリ
後から後から、とめどなく溢れだす涙
そして
一際強い衝撃
どうやら、飛空母は致命的な一撃を受けたようだ
艦内放送が断末魔と共に途絶え、その巨体は急速に高度を落とす
海面に激突した船体は、猛獣の悲鳴にも似た不協和音を鳴らし、次々と折れ、砕け、引きちぎられていく
飛空母の浮力である無質量ガスのタンクが破裂
引火したガスは「キサラギ」を消滅させた
燃え盛る海面を見下ろすレウデリは、その美しい翼を揺らしながら何度もマスターの名前を呼んだ
ジントラ、と
『レウデリ』
抱き締めたジントラは、いつものように温かく
そして、儚く
『ユキトラを、頼む』
とだけ告げて、あの閃光の中に溶けて消えてしまったのだった
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