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「アキ兄、つかれたよ。少し休もうぜ」
不満そうな声を背中で受けて、明良は背後を振り返る。
「まったく。タヌキ追いかけてたときの勢いはどこに行ったんだよ。真っ暗な山ん中で、幽霊とご対面したいのか?」
「んなこと言ったって、もう一歩も動けねえんだよっ」
暑さと疲労でやけになってか、優輝は足元にあった石を勢いよく蹴飛ばした。その石がお手玉のように軽く宙を舞って、ガサッと茂みの中に入る。と同時に、気のせいかこつんという音がした。
「こつん?」
明良が首を傾げていると、茂みの中から聞きたくない嫌な羽音が響きだした。
童謡の中にぶんぶんぶん、蜂が飛ぶ、という歌詞の入った歌があったと思うが、実際の羽音はそんなに可愛らしくない。たとえるならバイクのエンジン音だ。大群だったら暴走族の走行中並みの音ではないだろうか。
それは大袈裟かもしれないが、明良は蜂の大群に遭遇するのと暴走族に出くわすの、はたしてどっちがマシだろう。なんてことを考えた。完全な現実逃避である。
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