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自分でそう思いながら手の甲で顔を拭っていると、視界の隅に何かを見つけた。それは小さな石の地蔵と、古びて色のはげた木の、仰向けに倒れ伏した看板である。
そこに書かれている文字を読んで、明良は顔面蒼白になった。
その黄色い看板には黒い文字が並び、最後の二文字だけは赤で書かれている。
『この先ガケ、注意』
どこからか飛んできた危ないという言葉が何に対しての危ないだったのかを理解して、明良は疾風の如く弟を追った。
「止まれ優輝!!」
あらん限りの声で叫んだ。その頃には、背後からの蜂の羽音も聞こえない。聞こえるのはミンミンと鳴くセミの声と、優輝が茂みを掻き分ける音だけだ。
不意に、ガクリと優輝の体勢が崩れた。小さい生垣(いけがき)ほどの高さの茂みが、その先の崖を隠していたのだ。
「うあっ…」
「優輝っ!」
明良は無我夢中で手を伸ばした。
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