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パラパラと、土と小石と、優輝が持っていた虫とり網、明良が被っていた帽子までもが下の森に落ちていく。けれど、彼らは落ちなかった。
間一髪明良の伸ばした手が、弟の手を掴み取ったのである。
「た、たすかった…」
宙ぶらりんの状態で、優輝はどっと冷や汗をかいた。彼の手を崖の上で握りしめている明良の額にも、居心地の悪い汗が流れる。
「まったく……そういうセリフは、俺がおまえを引き上げてからにしろよ」
明良は優輝を引き上げようと試みた。だが、そう簡単にはいかない。小学生で、しかも一歳しか年齢に差がない弟を引き上げるのは難しすぎる。ついでに今は、お互いの手が汗で滑りやすくなっているのだ。
「先に謝っとく。もし落としたらごめ…」
「落とさないでえぇっ」
みっともなく喚く弟に冗談だと返しながらも、明良は崖に身を乗り出し這いつくばった状態のまま途方に暮れた。自分ひとりではどうにもならないが、この状況では助けを呼びに行くこともできない。
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