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どうすればと真剣に悩み始めたとき、誰かが音もなく彼の横に膝をついた。
「手伝おうか」
澄んだ声が聞こえて、明良と、彼の手にぶらさがっている優輝はピクリと反応を示した。
その声は、先程明良に危険を知らせてくれたそれである。そして明良の横に膝をついた声の主は、短い黒髪の少女だった。
Tシャツに長ズボンにスニーカーという格好の明良と優輝とは違って、少女は夏にしては厚手のパーカーを羽織っている。少し大きめのグレーのパーカーはいかにも暑そうだったが、彼女は汗ひとつかいていなかった。その顔は色白で、病的とさえ言える。年の頃は明良と同じくらいか、幼さの残る顔つきは愛らしいが、どこか影が薄く思えた。
ぼうと明良がその少女を見ていると、彼女は彼の返事を待たずに優輝の手首を掴んだ。そのとき優輝が身じろぎしたのを、繋ぎ止めている手から明良は感じた。彼を引き上げようとする少女の手が、明良のそれにも触れる。さっきまで水にひたしていたかのような、とても冷たい手だった。
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