夏山の柵

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 いつの間にか、セミの音がひぐらしの声に変わっている。 「助かったぁ…」  どうにか少女の手を借りて、優輝は無事に引き上げられた。坐り込んで息をつく弟を、同じく坐った状態の明良はこらと叱る。 「まずはありがとうだろ?」  明良は、自分の隣に坐っている少女を手でさした。すると優輝はそうだったと口にして、姿勢を正して頭を下げる。 「ホントありがとう! 恩にきるぜ!」  言葉遣いはなっていないが、格好だけは土下座の体(てい)だ。明良は軽くため息をついて、それから少女に向き直った。 「手伝ってくれてありがとう。おかげで弟を引き上げられたよ」  感謝を込めてそう言うと、少女はにこりと笑んだ。路上に咲く一輪の花のような、儚げな笑みだった。 「気にしないで。ここ、茂みがあって崖がわかりにくいから危ないのよ。……柵でも、あればいいんだけどね」
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