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どこか意味深にそう言って、彼女は崖の方を見る。その瞳は、少し悲しげだった。
ひぐらしが鳴いている。
腕時計を見れば、もう十八時近かった。冬だったらとっくに日が暮れている時刻だ。
「あの、ひとつ聞いてもいいかな?」
明良は、少女に村までの帰り道を尋ねてみた。すると彼女は可笑しそうに笑う。
「なんだ、迷子だったの?」
「恥ずかしながら」
優輝をじと目で睨み付けると、彼はあらぬ方を向いて口笛を吹いた。どこまでも幼い行動である。
明良がそんな弟に頭を悩ませていると、音もなく少女は立ち上がった。
「いいよ。案内してあげる」
そう言って、短い髪をふわりと翻しながら歩きだす。礼を言って、明良と優輝は後に続いた。
ふたりがあっちでもないこっちでもないと進んでいた山を、少女は真っ直ぐに下りていく。明良が服を枝に引っかけ優輝が滑って尻餅をつくようなことがあっても、少女だけはどこにも服を引っかけなかった上に、足を踏み外すこともなかった。
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