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彼女のあとに続きながら、優輝は声をひそめる。
「アキ兄…」
「わかってる」
同じく声を潜めて返し、黙っていろと明良は告げた。そして、前を行く華奢な少女の背を観察するように眺める。
「大丈夫。悪いひとじゃない」
明良の言葉に、優輝は「それくらいわかるよ」と言い返した。
どれだけ歩いただろうか。斜面がだんだんなだらかになって、夕暮れ迫る小さな村の、民家の明かりが見えてきた。
少女はそこで足を止める。明良と優輝は、村に戻れた喜びに押されて、駆け足で彼女を追い越した。
「やっとついたぜ!」
満面の笑みを浮かべて、優輝が思い切り背伸びをする。明良は「まったくだ」と苦笑した。そして空を見上げる。
橙の色が夕闇に負けて、西の方に後退していた。けれど、まだお互いの顔は十分に判別できる。早足で歩けば、完全に日が落ちるまでには祖父母の家に辿り着けるだろう。
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