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「ホントありがとうっ」
優輝は、笑顔のまま少女を振り返った。しかし、彼女の姿はそこから忽然と消えている。まるで最初から、誰もいなかったかのように。
「なんだ。もう行っちゃったんだ」
優輝は、彼にしてはしょんぼりとした声でそう呟いた。
ざわざわ…と、涼しい夕暮れの風が吹く。
「帰ろう優輝。あとは、また明日だ」
明良がそう言って手を差し伸べると、優輝は大人しくその手をとった。夕暮れの砂利道を、兄弟は仲良く歩いていく。
翌朝、明良と優輝は近所の高校生の家を訪れた。ふたりが田舎に来るたびよく遊んでくれた、吉川和哉(よしかわかずや)の家だ。
古民家を思わせる昔ながらの縁側に、彼はいた。その姿を見つけて、優輝が笑みを浮かべる。
「カズ兄っ」
「ん? よう、元気そうだな」
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