夏山の柵

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 水筒に水が半分もあると考えるか、半分しかないと考えるか。それは時と場合とそのひとの楽天家さによるだろう、と住吉明良(すみよしあきら)は考える。 「あっちいぃ…」  後ろで幼いうめき声が聞こえて、キュッキュと水筒を開ける音がした。明良はうんざりした気持ちで背後を振り返る。そこでは危機感のまるでない弟が虫とり網を片手に、戦隊ものの主人公がプリントされている水筒を傾けていた。 「こら優輝(ゆうき)。あんまりぐびぐび飲むな」 「いいじゃんか。どうせ水道の水で作った麦茶なんだし、あと半分もあるんだぜ」  けろりと言ってのける弟。ああ、若いってすばらしい。  そう考える明良も十二歳で十分に若い。しかし、この状況で危機感を感じていないひとつ違いの弟は、もっともっと若いだろう。
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