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「おまえな、どんだけ頭がめでたいんだ」
いささか怒気を含んだ明良の声音に、優輝は及び腰になる。自分の失言を悟ったようだがもう遅い。夏の暑さと長時間のハイキングのせいで、明良の機嫌はこれ以上ないほど斜めだったのだ。それが優輝の危機感のかけらもない発言で垂直になった。
身構える弟に、明良は早口で言い放つ。
「だいたい誰のせいでこんな山ん中を歩いてると思ってんだぁ!」
そこから延々と説教が続いた。
明良はべつに怒りたくて怒っているのではないし、怒るだけ時間と体力の無駄だということも知っている。しかし今は、理性よりも感情が勝った。
というのも、今現在自分たちが当てもなく山中を彷徨っている原因が、すべて優輝にあるからだ。
ことの発端は今朝、優輝が置き手紙を残して祖父母の家から消えたことにある。
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