夏山の柵

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 明良はその手紙をポケットから取り出し、書いた本人に突き返した。そこには、小学五年生にしては乱雑な文字が並んでいる。 「『ツチノコをつかまえてくるぜ』だぁ? 簡単に見つかるわけないだろう! しかも山に入る寸前の看板ちゃんと見たか? あれになんて書いてあった!?」  ものすごい剣幕で問いかけると、優輝は肩をすぼめて答えた。 「クマとマムシとスズメバチに注意」 「だろ? カタカナでクマとマムシとスズメバチって書いてあったよな。注意って漢字はまさか読めるよな?」  言外にそこまで馬鹿じゃないよなと問われて、優輝は小さくうんと頷く。 「クマにマムシにスズメバチ、全部やばいってわかるだろ? なんで山に入った!?」 「だからツチノコを…」 「ツチノコがもし仮にこの山に天文学的確率でいたとしても、それが簡単に見つからないことは確実、その他もろもろがいること確実!」
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