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山の入り口にクマとマムシとスズメバチ云々(うんぬん)、という笑えない看板を見つけたときは、回れ右して帰ろうかと思った。だが、どんなに馬鹿でも弟がいなくなったとなれば捜さないわけにはいかない。
そして明良が山道で優輝をやっと見つけたときから数えると、彼の腕時計は一時間の経過を告げている。無感情に時間を表示するデジタルの画面に視線を落とせば、ご丁寧に現在は十七時二十四分三十六秒と、防水機能も兼ね備えているその時計は、一分一秒まで教えてくれる。一秒、また一秒と、日暮れがじりじり近づいてくる。
非常にまずい事態だ。
なぜなら、住吉兄弟には霊感がある。夜は魔性のものが見えやすい。日が暮れたあとの寂しい山中を歩くのは、ぜひ御免被りたい。
だが、もはや簡単に帰れる状態ではないのだ。なぜなら、帰り道がわからなくなったから。
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