夏山の柵

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「だって、東京にタヌキっていないし…」  東京でも都市部から遠い田舎のほうにはいるだろう多分。  そう言ってやることも面倒になって、ああそうかよと明良は返した。  逃げるタヌキを必死になって追いかける弟を、明良も同じく必死に追った。あまりに必死だったので、帰り道さえ見失い現在に至る。なんとも間抜けな話だ。  ちなみにタヌキには逃げられた。おそらく巣に帰ったのだろう。帰り道すらわからなくなった自分たちが、タヌキより劣っているように思えてつらい。  明良は、もう何度目かのため息をついた。  そこからは会話もなく、聞こえるのはセミの声のみ。まるでこの世界には、自分と弟とセミしかいないようだ。そんなことを考えながら当てもなく、というよりは、当てずっぽうに山を彷徨った。どれくらいそうしていただろう。不意に優輝が足を止めた。
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