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「十数える間に出てこォい。ラストオーダー」
と言いつつ、先ほど声がしたドアの方面に銃を向けた。
(…降参する気は、無ぇみてえだな。朝っぱらからとはイイ度胸してやがる)
「じゅう、きゅう、…いっちぃ、ぜーろぉ」
十全部数えるのも面倒なので、トリガーに力を込めようとした時――――――
(朝っぱらから笑えないセルフジョークをかましてるのは貴方だよー!!!ってミサカはミサカは現在の前頭葉に配信される定期型電気信号の正常機能にリサーチをかけてみたりー!?)
大声で叫ぶラストオーダーの声が「聞こえた」。
「ァッア!?どっから叫んでんだぁ!?」
脳に響くほどの大声。声は銃口を向けている方向の逆。つまり居間のほうから聞こえた。『打ち止め(ラストオーダー)』はすぐ近くにいる。それは間違いない。しかし、辺りを見回しても誰もいない。
(ミサカはいないに決まってるじゃん!って当り前のことを言わせないでってミサカはミサカは朝から緊急時の演算アプリケーションを起動させられたことにプンプン怒ってみる!)
「うおおぉオッ!?」
『一方通行(アクレラレータ)』の体がフワリと宙に舞った。
さらには右手にあった拳銃は、ユラユラと元にあった下から二番目の戸棚へ飛んでいきながら、空中でカチャリカチャリと安全装置などがかかっていく。まるで透明人間がそこにいるが如く。
「お、おいっ!これはお前の仕業かッ?とっと下ろしやがれこのクソガキがァ!」
(俺の能力が『打ち止め(ラストオーダー)』に操作されてるだと?しかも、拳銃みてェな小さい物体にあんな細かい動作も同時に演算できンのか!?)
大気の流れを組む大規模な高速演算も困難な部類に入るが、実は微小な『ベクトル』演算の方が難しい。
重い物質を動かす時にはその物体が動くほどの『ベクトル』を加えればいいし、人を吹き飛ばすほどの風圧を生み出すためには人間が吹き飛ばされ、かつ人間が死なない範囲の『ベクトル』量を加えればいいだけのことだ。しかし、空中で携帯電話のボタンを的確に押すような精密な演算は困難を極める。拳銃の場合なら些細な演算誤差で安全装置をかけるどころか引き金に『ベクトル』が向き、誤って発砲してしまうかもしれない。
地面から一メートル程の高さで何のなす術もなく浮上している彼だが、現在の状況を冷静に分析していた。
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