記憶の海

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猛る炎。誰かの叫び。そして、人々を襲う異形の徒ーー魔物。酷く血生臭いこの光景。記憶には薄っすらとしか残されていないこの光景。ああ、なんだ……僕の故郷か。正確には、故郷だった村か。 自分の故郷が破壊されていくのをひどく冷めた気持ちで見る。これが、僕の夢だと嫌というほど知っているから。 この夢を見るのは、何も初めてではない。何十と、いや何百と見たからだ。当時の僕はまだ五つ程しか生きていなかったにも関わらず、こんなに鮮明に覚えていることに嫌気が差す。 「はあ、……はあっ!……はあっ!」 荒い息を吐き出しながら駆ける女性。まだ年も若く母親であろうか、その胸にはまだ小さい幼子が抱えられ、その幼子は恐怖に身を震わせている。
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