記憶の海

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お師匠様は母親に無事か否かを問うたが、母親からは何の返事もない。 それもそうだろう。彼女の身体は傷だらけで、無事である箇所を探す方が困難極める。お師匠様はその様子を察し、近づく。 「なあ、おネェちゃん。あんたは助からねえ。俺様の魔法を持ってして生きる事は出来ねェ。だから……なんかいい残すことはねぇか?」 高圧的な言い方。物怖じしないその口調。そして、一人称が俺様。まさしくお師匠様。しかし、母親に掛けた言葉は聞いたことがないくらい、無情だった。 「ーーーーーーす。」 「ん?」 「子どもを、ーーこの子を、お願い、します……っ!」 涙を流しながらそう口にした母親。本来であれば、我が子の成長を間近で見守ることを約束されていたはず。魔物の襲撃という異分子[イレギュラー]によって、叶うはずだったモノが叶わない。それが、どれだけ悔しいものか。彼女以外に知る者はいないだろう。
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