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それには答えず、紅蓮は何かをすれ違い様に狸苑へ投げ渡し、鳳家の重鎮達の間を通り抜ける。
座したのは、今は亡き紅葉が座していた場所――即ち、領主の席。
未だ紅葉の喪が明けていないため、黒い質素な喪服に身を包んだ紅蓮は、裾が絡げるのも気にせず、まるで男の様な動作で胡座をかいた。
そうして、顎をしゃくる。
「それは今朝、父の部屋から見付かったそうだ。…読んでみよ、狸苑」
口調すらも男の様な紅蓮の物言いに不愉快そうにたじろいだ狸苑だったが、鳳家直系の娘には逆らえぬと、投げ渡された書簡を開いた。
文字を目で追っていた狸苑の顔が、徐々に青ざめていく。
「…狸苑殿?どうなさいました」
「何と書かれているのですか」
議論の場に居合わせた数人が問い掛けるが、狸苑は押し黙ったまま答えない。
「…どうした?答えてやれば良い。そこに何が書かれているのか、包み隠さず」
冷たく言い放った紅蓮を憤怒に燃える瞳で見つめたが、狸苑は震える声でつっかえつっかえ話し始めた。
「……我、鳳 紅葉の亡き後、鳳家及び南焔の全権を、我が娘紅蓮へ譲る事を、ここに遺す…」
静まった場がざわめき出し、狸苑を除いた全員が紅蓮を仰ぎ見る。
紅蓮は自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、重々しく宣言した。
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