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「―――――っ!!」
血塗れの、父だった。
何も考えられなくなった私の視界は、そこで暗転する。
南焔地方領主・鳳(ほう) 紅葉の死は、領民に衝撃をもたらしただけでなく、次期領主の選定をも難航させた。
「紅蓮様はまだお若い…ここはやはり、雀(じゃく)家の跡取りである朱桜殿に…」
「いや、これまで筆頭家令として鳳家を支えて来たのは狸苑(りえん)殿だ。狸苑殿こそ相応しい」
「…こんな時、燈蒔(とうじ)様がいらっしゃれば…」
白熱する議論の場で、ぽつりと落とされた呟きに、場は静まり返る。
重苦しい沈黙を破ったのは、部屋の外の騒々しさだった。
「姫様、いけません、姫様!」
侍女の制止をものともせず、戸を勢い良く開けたのは、紅葉の一人娘である紅蓮だった。
「こ、これは紅蓮様。このような場に一体何用ですかな?」
言葉だけは丁寧に、鳳家筆頭家令である朱 狸苑が問い質す。
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