プロローグ

2/2
前へ
/60ページ
次へ
私は、その場から動けなかった。 「あ゛―!あぁ゛……」 奇声を発し、もがき苦しむ恋人。 ――何が起こった? 目の前の光景が信じられなくて、信じたくなくて、私は目を見開いて立ち尽くした。全身が震える。だって、これはあり得ないことなのだから。 けれど嘘だと思っても、夢だと思っても、涙を流したって事実は変わらない。私は口元を両手で覆った。唇に指先が触れる。……まるで血液など通っていないかのような冷たい唇。 そして彼は、化け物を見るかのような恐怖の目で、私を見上げた。 そう、たった今、私はこの口で――彼を氷づけにしたのだ。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加