桜は人を物憂い気持ちにさせる

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彼女は彼の視線から目を反らした。真っ直ぐ自分を見る目が、元恋人を彷彿とさせた。美雪は一つ深呼吸し、彼に頭を下げる。 「今は、どなたともお付き合いする気はないんです。ごめんなさい」 彼にきっぱりと言い放つと、振り返ることなくその場を後にする。彼女の長い黒髪が風に揺れ、桜の花びらが高く舞い上がった。 ***** 日差しは穏やかで、一限目だというのにうたた寝したくなるほどの陽気だ。美雪は窓の外を眺める。――彼女の物憂げな表情が、男子たちの視線を集めているのを、美雪は知らない。 その名の通り、雪のように透き通った白い肌。肩に落ちる黒髪は、艶やかに光り、黒い瞳は闇のように、見る者を吸い寄せる。……まぁ、本人はそのことに気づいていないのだが。美雪はぼんやりした頭を振って、授業に耳を傾ける。 ――海陽高校。生徒は約二百人弱。一学年二クラスしかない、小さな学校だ。町でひとつしかない学校なのだから、それが当たり前なのかもしれない。 海陽高校は、その名の通り『 海陽町』にある学校だ。
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