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辺りは山や川、海に囲まれ、駅もなければ高速道路も通っていない。良く言えば大自然に囲まれた、悪く言えば閉鎖されたド田舎の町なのだ。
そんな町に、美雪たち親子は引っ越して来た。彼女のことを、誰も知らない町。――私のことも、私のしたことも、私が何者であるかも、誰も知らない。
その事実は、美雪を安堵させた。彼女は今でも『あの日』を思い出すと、震えが止まらない。あの光景も、恋人の視線も、思い出せばたちまち彼女を動けなくさせる。
転校は、両親の判断だ。美雪を心配して、二人はこの高校に彼女を転入させた。
その時、予鈴が授業の終わりを告げる。生徒たちのほっとした息が漏れ、 教師が少しだけ声を張る。
「じゃ、十ページから十二ページの例題は宿題なー」
「えぇー?」
生徒たちが不満の声を上げる。
「大した量じゃないだろう?テストで困るのは自分なんだから、今のうちに勉強しとけ」
教師は慣れたもので、たった一言で彼らを静かにさせる。
「ほら、号令」
彼の言葉で委員長が号令をかけ、授業は終了した。美雪も自分の机を片付け、次の授業の準備をする。
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