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「川端」
すると、教師が美雪の前にノートを差し出した。
「今日、お前と栗尾が日直だから、よろしくな」
日誌を手渡されて、彼女はようやく思い出した。――そうだ、忘れてた。今日は私が日直だ。
「それじゃ、とりあえず黒板頼むな」
そう言って、彼は黒板を指差し、教室を後にした。黒板は先ほど書かれた数式で、余す所なく埋められている。美雪は、ちらりと隣の席を見る。
担任の彼が『生徒の名前を覚えられない』と言って、まだ席替えは行われていない。美雪の隣で寝ている彼が、同じ日直の栗尾なのだが。彼はいつも、休み時間になると机に突っ伏して寝ている。今も案の定、机にうつ伏せになっている。
――でも、そんなに難しいことをする訳じゃないし。
美雪は彼に声をかけるのを止めて、黒板へと歩く。黒板消しで擦れば、白い粉が落ち、元の深い緑色になった。しかし、そこで問題が一つ。高い所に書いてある文字に届かないのだ。美雪は背が低い、という訳ではないのだが、あの教師が高過ぎるのだろう。背伸びをしても届かない。
――まぁ、いっか。後で椅子でも持ってこよう。そう考えた次の瞬間、彼女の手から黒板消しが消えた。
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