思い出の香り(6)

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「本人が言っても信じられぬもの。毎日のように、あちきらには客の接待という仕事がありんす。それを申せば、皆アリバイがあることに」 「いや、アリバイにも穴がある。席を一度も離れなかったなら、アリバイはしっかりしているが」 「それは個々に聞かねば分かりんせん」  ため息混じりの声音は少し困っている。  ここから大変なのは抜け道を知っている者をいかに見抜くかだ。誰が知っていて知っていないか、見分ける方法を考えなければならない。 「椿は知りんせん、楸も恐らくは。あの二人の店は基本的に遊女に秘密を教えない節がありんす。菖蒲屋はまさしく微妙でありんすなぁ。ただ、梅屋以外の女郎を殺された店は誰ももう知りんせん。現役の太夫で知っているのはあちきくらいかと」  菊屋に女将はいない。早くに亡くなったため、年老いた店主が柊に秘密を打ち明けた。他の三店の女将は未だ健在なので、確証はないが太夫は知らないのが普通だ。  となると柊が非常に怪しい。 「ジェラルド、おまえがレイヴンに見張らせた人物は?」  ジョージアナの一言に柊は美しい顔〔かんばせ〕を強ばらせ、緊張する。  その場に冷たい何かが走り抜けた。
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