思い出の香り(6)

3/8
988人が本棚に入れています
本棚に追加
/351ページ
 柊は椿の話を聞き自身の中でそれらをまとめ、椿が店に帰った後こうしてここにやってきた。 「あちきは、松風様から地下通路のことを聞きんした。そして今回の事件、関連性のことも考え、過去に太夫を輩出した店を調べてみたところこのような」  巻かれた紙をテーブルに広げて全員に見えるようにした。  所々の店に円がついている。 「ここ最近に起きた、心中とは思えぬ不信死に円がついておりんす。そしてこれが、」  テーブルに置かれたペンを持ち、インクにペン先を浸した。流れるような動作でさらさらと円をつけていく。 「今円をつけんした場所が太夫を輩出し、地下通路が繋がっている店でありんす。犯人は、この通路の存在と出入口を知っている者のみ」  だとしたら犯人の可能性の幅はかなり狭まった。  菊屋において道を知っているのは柊と店主と松風のみ。しかし松風には殺す動機がないし、店主は高齢で隠し扉を開けられない。全ての事件当日にアリバイがきちんとある。  柊は自身のアリバイを尋ねられたが、答えずにただ笑った。
/351ページ

最初のコメントを投稿しよう!