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墨汁をぶちまけたような真っ黒な夜空。
星や雲は無く、変わりに浮かぶのは馬鹿デカい真っ赤な満月。あまりにもデカいからクレーターまではっきり見える。
年季の入ったコンクリート。周りを囲む灰色のフェンス。
風は吹いていない、無音の場所。でも、何だか肌寒い。
此処は学校の屋上に似ているけど、何だか違う場所のような気がした。
「……」
嫌いな女子制服を着た俺は、屋上の真ん中で真っ赤な満月を見上げていた。
「…………みこ……」
“御言(みこと)”と、自分の名前を呼ばれた気がして辺りを見渡す。
「不知火 御言(しらぬいみこと)……愚かな娘……」
男なのか女なのか、どちらにも片寄りが無い中性的な声。
「誰だ!!」
屋上に響く俺の声。
辺りに謎の声の主は見当たらない。何処から聞こえているのかもよく分からない。
「フフフ……君の滑稽な振る舞いは、見ていて面白い」
姿を見せずに俺を嘲笑う声の主。
“愚か”とか“滑稽”とか人を馬鹿にしやがって……!!
「君を含め、滑稽な愚者たちはこれからどんな道を歩むのかな……?」
「何処にいる! 出てきやがれチキン野郎!!」
俺は声を荒げた。
虚しく響いた声は闇に溶けて消えていく。
「これからも君たちのこと、じっくり観察させてもらうよ。君たちの傍で、ね」
ばさり、と大きな翼が羽ばたく音。月影之幻神が飛び立つときに聞こえたのと同じ音だ。
「っ!!」
振り返ると、視界の左隅にある屋上の出入り口に居た人影が飛び立つのが見えた。
あの夜に見た、大きな翼だ。
「待ちやがれ!!」
一方的に話し掛けてきた声の主、月影之幻神を追い掛けるために、俺は駆け出した……はずだった。
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